包丁を研ぐというのはとても奥が深く、沼も深いですw
今回はそんな包丁研ぎにおいて
『自分がどこまでの研ぎをしたいのか』
そのためには『なにを揃えれば良いのか』ということについて共有したいと思います。
具体的な研ぎ方の詳細や砥石そのものの説明(番手とはなにか等)についてはまた今度共有したいと思いますので、今回は少し触る程度にさせていただきます。
『自分がどこまでの研ぎをしたいのか』
結局これがわからないまま研ぎを始めると、必要のないものを買ってしまったり、包丁を壊してしまったりと、おかしな方向にいってしまう印象があります。
今回はかなり深い所まで研ぎをする場合でも使える『研ぎをするにあたって全てに共通して揃えたいもの』と、『マチミィがオススメする研ぎ方』で揃えるたいものを共有したいと思います。
研ぎをするにあたって全てに共通して揃えたいもの
研ぎたい包丁の新品の形をなぞった紙と割り込みのラインが何㎜程度あったかのメモ
まず包丁を購入したら、紙などに乗せて包丁の上からボールペン等で形をなぞります。
包丁の形ってとても大事で、かなり試行錯誤されてあの形になっています。
形が崩れてしまうと、例えば千切りがつながってしまうようになったり、手首に負担がかかったり、変な包丁の持ち方をしなくてはいけなくなって怪我につながったりしてしまいます。
なので買ってきた包丁の形を残しておいて、それを維持するように努めましょう。
この紙に自分で研いだ包丁を重ねてみれば、なんとなく形を崩してしまってないかどうかわかると思いますので、これから包丁を研ごうと思っている方は是非実践してみてください。
割り込みのラインが何㎜あったのかのメモは、研ぎ師さんに研ぎ抜きという工程(後述します)をお願いする際に使用します。
もう自分で研いじゃった!という方は信頼出来る研ぎ師さんに形を直していただいたあとに紙に描いて取っておくと良いですよ。
砥石
実際に包丁を研ぐ砥石はシャプトンの『刃の黒幕』がオススメです。
・研ぎ始めに吸水(水に浸けておくこと)が必要ない。
・1000番以降はすぐに平面が崩れることがない。
・非常に高い研磨力がある。
という素敵な砥石です。
私は8000番と30000番以外を所持していますが、全て用途ごとにオススメ出来る砥石になっています。
砥石台
研ぎ中に砥石がズレたりしないようにする目的と、高さがあったほうが研ぎがしやすいのであったほうが良いです。
シャプトンのケースが砥石台になるようなことが書かれていますが、正確な研ぎをしていく上ではカタカタと動いてしまい不十分ですので、しっかりとしたものを購入してもらいたいです。
第一回でも少しだけ触れましたが、『伊藤製作所123』という砥石台がオススメです。
3年ほど使用していますが、サビなど発生していませんし、とても使いやすいです。
面直し用砥石
砥石の平面を出すために、凹んだ砥石を削るためのものになります。
面直しをしたい砥石よりも荒い砥石で行うのが良いです。
基本的には平面の崩れない電着ダイヤモンド砥石を使うのですが、砥石をオススメのシャプトン製品を選んでいただいたのなら、『あらと君』をオススメします。
刃の黒幕は前述の通り、水に浸けてから使用しなくても良い砥石なのですが、あらと君は水に浸けないと使用出来ません。
ひと手間かかるのに何故オススメなのかといいますと、
1.研ぎを始める時に水に浸けてから始めれば、面直しをしたい時には吸水が概ね終わっているので、実際にはあまり手間に感じないこと。
2.もし荒砥石を使いたくなった時に試しに使ってみられること。
初めての面直し砥石にで電着ダイヤモンド砥石を採用してしまうと、研ぎに熱中してきて『荒砥石も使ってみたいな・・・』と思った時に購入しなおさなくてはいけませんが、私の荒砥石のオススメの中にあらと君は入っていますので、最初からあらと君を購入しておけば、2粒美味しいと思います。
(あらと君は220番なので、面直しには220番以下の電着ダイヤモンド砥石が必要です)
3.刃の黒幕に非常に相性の良い砥石であること。
研ぎに慣れてくると、刃の黒幕を使用しているとツルツルしてくる感覚がわかると思います。
その状況を、『目詰まり』しているといいます。
目詰まりは砥石本来の性能を発揮できない状態です。
そこで『ドレッシング』といって、表面の目詰まりを取ってあげる必要があります。
シャプトンはドレッシング用の砥石も販売していますが、こちらで面直しや包丁研ぎは出来ませんのでご注意ください。
あらと君はドレッシングをしながら面直しが出来る優れものなのです。
(もちろん荒砥石としても優秀ですよ!)
相性の良い電着ダイヤモンド砥石もあるのですが、お値段が結構高いものが多いです。
以上の3つから私のオススメはあらと君になります。
マチミィがオススメする研ぎ方
日頃の研ぎは刃先を整えるのみ自分で行い、難しいことは研ぎ師さんにお願いする。
第一回でお話しした、『自分で研ぎをする場合』と『自分で研ぎをしない場合』の中間です。
研ぎ方はとてもシンプルですので、皆さんがやりやすい研ぎ方だと思います。
切れ味が悪くなってきたなと思ったら、中砥石で刃先の0.5㎜から1㎜くらいを磨いてあげるように研いでください。
オススメの中砥石は1000番になります。
この際、1000番以下の砥石は使わないでください。
120番〜800番程度の砥石を荒砥石と分類しますが、研磨力が高すぎてゴリゴリと鋼を削り取ってしまいます。
この研ぎ方を実践していただく際は、必ず1000番以上の砥石を使用してください。
研ぐ範囲が広ければ広いほど苦労します。(1000番で5㎜の角度でなんてやろうものなら5時間以上平気でかかると思います。)
浅ければ浅いほど鋼が削れていくのが早くなります。(切れ味の観点からも、0.5㎜以下はオススメできません)
この際、部分的に研ぐのが良いという言い方をされる方がいますが、全体を研ぐように意識したほうが良いと私は思います。
初心者が部分的に研いだら高い確率で形を崩すと思います。
なによりもまず包丁の形を崩さないように研ぎを行ってください。
表からしっかりとカエリ(手で刃先を触った時にザラザラとするような感覚があります)を出して、裏からも同じようにカエリを出してください。
この時、切っ先から顎までの研ぎ跡が0.5㎜の角度なら0.5㎜に均一になるように心がけてください。
手の角度が最初は安定しないでしょうから、少し研いだら光に当てて研ぎ跡を目で確認しながら研いでいくと良いでしょう。
そして、先述した新品時の形をなぞっておいた紙に当てながら、形を崩さないように包丁全体を満遍なく研いであげてください。(紙を濡らさないようにしてくださいね)
調子に乗って研ぎすぎると形が崩れやすいです。
ある程度研いだら形をチェックすることを体に覚えさせてください。
クドくても何度でも言います、包丁の形を崩さないでください。
あとは仕上げ砥石でカエリを取ります。
中砥石で作った角度(0.5㎜など)と同じ角度が理想的ですが、仕上げ砥石なら0.5㎜以下になっても構いません。
例えば0.3㎜と決めたら、しっかりとその角度で均一に仕上げてカエリを処理する方が重要です。
表から触っても裏から触ってもカエリを感じないように仕上げてくださいね。
仕上げ砥石での研ぎに力はあまり必要ありません。
優しく優しくなでるように包丁の重さだけで砥石の上を歩かせるようなイメージで大丈夫です。
中砥石で1㎜の角度を作っていた場合、同じ角度でカエリがなかなか取れないのであれば、0.2から0.5㎜ほどに角度を変えて処理してみてください。(0.1㎜は刃を潰してしまうかもしれないので、慣れるまではやめておいたほうが良いと思います)
実際の手の角度やもっと詳細な研ぎ方は最初にお話ししましたとおり省きますが概ねこのような感じです。
仕上げ砥石は必要ないという意見もありますが、刃の黒幕の5000番だとAmazonで4500円程で購入できます。
こちらも私は3年使用していて、もっと砥石が減るような使い方をしていますが、確認したところまだ半分も減っていませんでした。
この研ぎ方なら落としたりしない限りは、私が3年で半分使っていないので10年以上は使えると思いますし、新聞紙でカエリを取るのに比べたら雲泥の差です。
その価値を考えるとそんなに高い買い物ではないと思いますので、ぜひ購入を検討してみてください。
刃先を研いでいくと、当然ですが、新品時の割り込みのラインがだんだん狭くなっていきます。
狭くなったものは広げなくてはいけません。
この作業を『研ぎ抜き』などと言います。(色々な呼び方があるので参考程度にしてください)
研ぎ抜き作業はかなりの根気と砥石の消費と知識と時間が必要ですので、料理人さんでも研ぎ抜きに関しては研ぎ師さんにお任せする方は少なくないと研ぎ師さんからお話をうかがっています。
今お話ししている通り、研ぎ抜きはかなり根気と砥石の消費と知識と時間が必要です。
大事なことなので2回言いました。
なので、割り込みの鋼を全て研ぎ切ってしまってから研ぎ師さんにお願いすると結構な研ぎ料金と手元に帰ってくるまでの時間がかかってしまいます・・・
ですので、マチミィが信頼している研ぎ師さんに、研ぎ依頼をするタイミングについて聞いてきました。
『あくまで目安ですが、鋼を1/3削ったらその旨を伝えていただいた上で研ぎ抜き依頼をいただければ、研ぎの待ち時間も少なく、料金も高すぎず、良いバランスでお手元にお返しすることが出来るのではないか』
とのことです。
半分削るまでいけないか?とお話ししましたが、二人で出した結論は1/3がいっぱいいっぱいでした。
『いや、マチミィさん?あなた解ってるでしょうけれど、1/3なんて言わずに研ぎ依頼は早ければ早い方が良いですからね?!』
とおっしゃっていましたが、聞かなかったふりをしましょうw
冒頭でお話しした割り込みのラインを残したメモはここで使用することになります。
新品時に6㎜のラインが出ていたなら、その線が4㎜になったら研ぎ依頼に出す頃合いです。
また6㎜に戻すかどうかは研ぎ師さんとよく相談すると良いでしょう。
実際使用していて、『もう少し丈夫な刃にしてほしい』や『もっと切れ味重視にしてみてほしい』などの要望を伝えると、親身な研ぎ師さんなら『それなら5㎜にして様子を見ようか』とか『じゃあ7㎜ラインを出してみようか』など相談に乗ってくれるかもしれません。
この割り込みのラインは出せば出すだけ切れ味が上がるというわけではなく、鋼材や包丁の出来栄えによって限界のラインが一本一本異なります。
しっかりとした研ぎ師さんは安易にラインを広げたりはしたがらないと思います。
理由は単純で、仮に7㎜ラインを出して刃こぼれしたり持ち主さんの思っていたのと違ったりしてしまっても、当たり前ですが薄くしてしまった包丁を厚く戻すことはできないからです。
研ぎ抜きをお願いをする際は、ちゃんと自分の要望を伝えた上で、しっかりと研ぎ師さんのお話を聞いて、まずはオススメの仕上げにしていただいて、実際に使用してみるのが良いと思います。
2回目以降に、またラインのメモを取っておいて、『今度は○㎜を試して見たい!』などとお伝えしたら、快く引き受けてくださると思いますよ。
まとめ
購入するものは最小限にするなら、
1.研石台と刃の黒幕1000番
2.面直し砥石
3.刃の黒幕5000番
この順番で揃えていくと良いと思います。
必ず1000番が凹む前に面直し砥石を購入して面直しを行ってくださいね。
初めて研ぎをしようとする場合、『自分がどこまでの研ぎをしたいのか』がわからないまま研ぎ道具探してしまうと、色々なオススメの物を必要のないものまで買ってしまったり、
シャプトンの1000番だけを購入して、どんな研ぎをすれば良いのかわからないままyoutubeの動画を見よう見まねしてガムシャラに研いで形を崩してしまったりしてしまうことが多いと思います。
まずはオススメした通り、基本的な形を崩さないように注意しながら、初めから難しい研ぎを実践しようとするのではなく、自分にとって無理のない研ぎをしてほしいと思います。
自分で包丁を研いでいると、切れ味がだんだん良くなっていったり、自分の料理にあった研ぎを発見したり、包丁と一緒に育っていくような、本当に一緒に歩いていっているような感覚を私は感じています。
そんな中で私の信頼している研ぎ師さんに、研ぎの相談に乗っていただいた際に
『ゆっくり育てていってあげてください』
と言われたのがとても印象的でした。
私のように感じている人は少なくないんだろうなと嬉しく思ったものです。
皆さんもご自身の相棒を自分で研いであげたら、一層愛着が湧くと思いますので、包丁研ぎを始めてみてはいかがでしょうか。